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Timestageのメンバーが、歴史にまつわる雑談を気まぐれに語っていくブログ。
<< 門司戦記(十二) 雷雲激突の巻 | main |
門司戦記(十三) 西国無双の巻
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門司戦記 〜雷雲の陣〜
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  (十三) 西国無双の巻 
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 戸次鑑連(べっきあきつら)の愛刀、
 雷切(らいきり)の刀身が、
 弘中方明(ひろなかかたあき)の槍を
 押し込みながら、ぎりぎりと首を狙う。

 弘中方明は片膝を地に着きながら
 雷神の太刀を全力で押し返しているが、
 もはやそれに耐える力は残されていない。

 死刑執行の刃が、首元まで迫っている。


 弘中方明は、残る力で声を振り絞った。


 「親父どのーーーーっ!」


 その声で、明神曲輪(みょうじんくるわ)の様子が
 大きく動く。

 方明の声を合図に、
 土手の上にいた堀立直正(ほたてなおまさ)が
 右手の刀を大きく振り上げた。

 その直後、土手の上で明神曲輪を囲む
 毛利軍の弓箭部隊が一斉にその矢を構え、
 大友軍と交戦していた毛利の将兵たちも
 その土手の上へと一気に退散した。

 刃を交わしたままの戸次鑑連と弘中方明が残され、
 大友軍の第二陣と共に、
 曲輪を囲む毛利の矢の標的となった。


 「待て、方明を射てしまう!」

 毛利軍の総大将・小早川隆景(こばやかわたかかげ)が
 慌てて堀立直正に駆け寄った。

 だが、堀立直正が小さくうなずいたのを見て、
 弘中方明・堀立直正の義父子の信頼関係の間で
 意思疎通ができていることをすぐ見抜いた。

 土手に上がった冷泉元豊(れいぜいもととよ)、
 桂元親(かつらもとちか)ら若手の将たちも、
 心配そうに追いつめられる弘中方明を見つめている。

 静寂と緊迫感が、門司城の中に張りつめた。



 「負けを認めたか、風神の弟」


 戸次鑑連は、周囲の毛利軍の動きを察知し、
 目の前に押さえつけた弘中方明に言う。

 周囲の毛利兵への合図を、
 好敵手の最後のあがきの声だと見たのである。

 弘中方明は自嘲気味に小さな笑みを見せながら、
 戸次鑑連に言葉を返す。


 「ああ……。あんたの勝ちだ。
  この門司城の中に、あんたを超える武人はいない」

 「ゆえに、道連れにその身を捧げるというか。
  賢明な死に様よ」

 「いや、取引だ。戸次殿」

 「……何だと?」


 戸次鑑連の眉が動く。

 至高の武人にとって、土壇場の足掻きは気に障る。

 この雲将もちまたの俗人と同類であったか、
 という残念な表情が見て取れた。

 しかし、弘中方明は言葉を続ける。


 「戸次殿、あんたももう分かっているはずだ。
  大友軍の突入は、毛利の罠にかかっていて、
  後ろの本軍ももう危機だってことを」

 「……」

 「それでも雷神自ら乗り込んできた理由は
  俺にだって分かる。
  周りの毛利の矢が狙うは、俺とあんたじゃない」
 
 「……!」


 鬼戸次の喉から、うなり声が上がった。

 堀立直正の発射合図を待つ毛利の弓箭部隊は、
 武を合わせる戸次鑑連と弘中方明ではなく、
 最初の一斉射撃を受けて
 瀕死の状態で地にうめく大友の先鋒部隊に
 さらにとどめを刺すことを狙っていたのである。

 先鋒部隊の突入失敗を知りながら
 戸次鑑連が自ら後続で乗り込んできたのは、
 生き残った彼らをできる限り助け出すためであった。

 雷切の刃を防ぐ槍に両手を奪われている弘中方明は、
 顎で周囲に横たわる二将を差し示そうとする。
  

 「由布源兵衛、小野弾介……。
  彼らはいずれ天下に名を残す槍使いになるぜ。
  彼らに矢傷がなければ、俺は負けていただろう。
  あの若人たちを、ここで殺すのは惜しい」

 「む……」

 「だから、彼らを連れて、ここは退け。
  だが、門司城のこの先を望むなら、
  毛利の矢は、あんたも俺も、彼らも射抜く」


 戸次鑑連にも、今回の門司城攻略作戦は
 根本的に失策であったことは分かっている。

 主君・大友義鎮(よししげ)の本陣にも
 危機が迫っているかもしれないのだ。

 すぐにでもこの門司城の罠から味方を救い出し、
 後方へと引き上げなければならない。

 弘中方明の申し出た駆け引きは、
 まさにその戸次鑑連の葛藤を突いていた。


 「……二言はなかろうな」

 「毛利が大友軍を射れば、俺もろともだ。
  担保はこの弘中方明の身一つ。信じろ」

 「いいだろう」

 
 戸次鑑連は、弘中方明から太刀を引いた。

 強烈な力から開放された弘中方明は、
 槍の柄を地に突いて、かろうじてその身を支える。

 
 戸次鑑連が雷切を掲げて、合図を出した。

 すると、戸次鑑連を乗せた大きな輿を担いでいた
 黒い鎧の大友兵が、瞬く間にその輿を分解し、
 そこに何枚もの板が出現した。

 そして、明神曲輪に横たわる将兵の中で、
 息のある負傷者を次々とその輿に乗せていく。

 輿が担架の代用となっていたのである。

 (戸次隊の輿って、このためにあったのか……!)

 そのあまりにも素早い大友軍の処置に、
 その渦中にいる弘中方明も、
 彼らを取り囲んでいる毛利の将兵たちも、
 呆気にとられている。

 戸次鑑連は由布源兵衛、小野弾介の若き二将を
 軽々と担ぎ上げて、輿の一つに乗せた。

 そして、再び戸次鑑連の合図と共に、
 負傷者を担架として輿をかつぎ上げていた部隊は、
 一気に明神曲輪から城門の外へと駆け下りていった。

 戸次鑑連はその殿(しんがり)となって、
 毛利軍ににらみを利かせていた。

 輿部隊が全て退却をしたのを確認して、
 戸次鑑連は最後に弘中方明に雷切の先を向けて言った。


 「弘中殿。この勝負、おぬしの負けではない。
  引き分けのまま、退かせてもらおう。
  だが、次の勝負はおぬしを葬る」

 「正攻法じゃ、俺はあんたには勝てないから、
  次は俺のやり方で、あんたの喉元を狙うぜ。
  次こそは、俺が雷神から勝ちをもらう」

 「いいだろう、どんな方法でも挑むがいい」


 戸次鑑連と弘中方明、雷雲の二将は、
 その眼光で火花を散らしながらも、
 再戦を楽しみにするかのように笑い合った。

 そして戸次鑑連はきびすを返し、
 悠々と門司城から引き上げるのであった。


 毛利軍の若き総大将・小早川隆景は、
 戸次鑑連の卓越した武術と用兵を目の当たりにして、
 固唾を飲みながら呟く。

 「豊後の雷神、まさに西国無双の武人なり……。
  彼が九州にいる限り、
  毛利が大友を凌駕するのは至難の業だろうな……」


 冷泉元豊ら、若き毛利の将たちは次々に土手を駆け下り、
 雷神との死闘でもはや歩く力をも使い果たし
 明神曲輪の中央で立ち尽くす弘中方明に
 肩を貸して心配の声をかけた。

 弘中方明がその身を捧げた駆け引きをしなければ、
 今頃あの化け物のような強さの雷神は、
 毛利の将兵たちをさらに切り刻んでいたであろう。

 戸次鑑連を無傷で取り逃がしたことよりも、
 今以上に被害が拡大しなかったことに、
 明神曲輪の毛利兵たちは安堵の息をついたのだった。


 そして、戸次鑑連隊が大打撃を受けたのと同じく、
 他の大友軍の各隊も、毛利軍の調略によって、
 甚大な損害を被っていた……。


 (つづく)





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  『門司戦記』武将列伝 [十三]
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 ■桂元親 (かつら もとちか)

 毛利家家臣。父は「厳島の戦い」で大きな戦功を立てた
 宿老の桂元澄(もとずみ)。武芸に秀でた若き武将で、
 同じく重臣・赤川元保の子・赤川元徳(もとのり)と
 共に毛利軍の若手を引っ張る。冷泉元豊(もととよ)ら
 大内の降将たちを当初味方として認めていなかった。
| 『厳島戦記』 | 23:07 | comments(0) | trackbacks(0) |









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