Calendar
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< March 2017 >>
CATEGORIES
ARCHIVES
LINKS
PROFILE
SELECTED ENTRIES
RECENT COMMENTS
OTHERS
Timestageのメンバーが、歴史にまつわる雑談を気まぐれに語っていくブログ。
<< 門司戦記(十一) 雷神降臨の巻 | main | 門司戦記(十三) 西国無双の巻 >>
門司戦記(十二) 雷雲激突の巻
―――――――――――――――――――――――――――― 
門司戦記 〜雷雲の陣〜
――――――――――――――――――――――――――――
─────────────
 (十二) 雷雲激突の巻 
─────────────


 毛利軍、大友軍の両軍が入り乱れているはずの
 門司城の明神曲輪(みょうじんくるわ)が、
 肌を刺すような緊張感を伴う一瞬の静寂に包まれた。

 大友軍随一の猛将、
 戸次鑑連(べっきあきつら)が地に降り立つ。

 若き日に雷に打たれたことで歩行困難となり
 輿の上での戦を余儀なくされたと思われていた
 鬼戸次が、その両脚で立ち構えているのである。

 それは敵の毛利軍だけではなく、
 味方の大友軍の将兵でさえも、
 ほとんど誰もが見たことがない光景だった。


 戸次鑑連が繰り出した愛刀・雷切(らいきり)の一撃を
 かろうじて避けた弘中方明(ひろなかかたあき)は、
 素早く両手の槍を握り締め直した。

 数々の戦場をくぐり抜けてきた弘中方明も、
 鬼戸次の並ならぬ気魄に、
 身の毛がよだつほど身体の芯が強張る思いがした。


 「やはり只者じゃねーな……、豊後の雷神は」


 呼吸を整えるようにつぶやく弘中方明。

 それに対し、不敵な笑みをこぼしながら、
 戸次鑑連が答える。


 「おぬしの槍も、見上げたものだ。
  この雷神を輿から降ろすとは」

 「……」

 「さすがは、周防の風神の血よ」

 「……!」


 雷神の口から出た風神という言葉に、
 弘中方明は一瞬面食らった。


 「……知っているのか、兄上を」

 「無論。忠節に生きた風神、
  いつかは出会いたかったものだ」


 周防の風神。

 先年の「厳島の戦い」で凄絶な討死を遂げた
 方明の兄・弘中隆包(たかかね)のことである。

 生前の弘中隆包は、その疾風迅雷の用兵術で
 周防国(=山口県)の風神と称されていた。

 大内氏への忠義をまっとうした弘中隆包が
 最後に仕えていた主君は、
 大内義長(おおうちよしなが)。

 戸次鑑連が家督相続前から支え続けている
 大友義鎮(おおとも よししげ)の実弟である。

 主君の弟君が隣国の大内氏を継ぐことになった時、
 戸次鑑連は密やかにその身を案じ、
 常に大内氏の動向に気を向けていた。

 そして、風神・弘中隆包の忠義を聞き及び、
 大内義長の運命を内心で彼に委ねたのである。

 天運の流れによって、その弘中隆包は厳島に討たれ、
 大内義長もこの世を去ることになったが、
 戸次鑑連は弘中隆包の死に様を伝え聞いて、
 武士としてかくありたいと心に思っていた。

 武士は武士を知る。

 出会うことのなかった風神と雷神の運命が、
 今ここで弘中方明によって繋がれた。


 そして、戸次鑑連は厳島に散った風神だけではなく、
 その弟の弘中方明のこともあらかじめ知っていた。


 「風神を支えた岩国の雲、弘中河内守か。
  噂に違わぬ、槍の腕よ」

 「俺の名も知っていたのか……」

 「源兵衛からも、弾介からも聞いている。
  ザビエル殿からもな」

 「……!」


 弘中方明はさらに驚く。

 門司城突入の際に槍を合わせた
 源兵衛こと由布惟信(ゆふ これのぶ)に、
 小野弾介(おのだんすけ)。

 また、周防山口(=山口県山口市)の政変の時に
 方明によって豊後国への逃亡を手助けされた
 異国の宣教師フランシスコ・ザビエル。

 彼らによって、弘中方明の勇は、
 天下にその名の轟く雷神の耳に届いていたのである。

 大内や毛利を陰ながら支えてきた
 岩国の雲将・弘中方明の名も、
 戸次鑑連の頭の中にはしっかりと刻まれていた。


 「だが、この雷神の武は封じることはできぬぞ。
  見せるがいい、雲の武を!」

 「……!」


 あっという間に、戸次鑑連は間合いを詰めて
 弘中方明の前で
 雷切を持つ手を大きく振りかぶっていた。

 弘中方明は慌てながらもとっさに身を返し、
 その電光石火の大太刀を間一髪で避ける。

 雷切が明神曲輪の地をえぐり、電気の花が散った。

 弘中方明は反射的に槍先を叩き込むが、
 翻った雷切の刃がそれを弾き返し、
 槍を握った両手に電流のような刺激がほとばしる。


 「ぐっ……!」


 戸次鑑連のと剛腕と敏速は、
 完全に弘中方明の予想を超えていた。

 海の戦いに明け暮れ
 敏捷さは誰にも負けなかった弘中方明を
 はるかにしのぐ速度で、
 戸次鑑連の雷切の刃は方明の身に迫っていく。

 弘中方明は自らの浅はかさを恥じ、後悔した。

 天下にその名の轟く勇将とは言え、
 戸次鑑連を輿の上だけの不随の将だと侮っていた。

 輿からの攻撃はあらゆる想定をして、
 討ち取ることはできるだろうと思っていたのである。

 戸次鑑連が両脚で地に立った時点で、
 弘中方明の考えつく限りの対策は全て消し飛び、
 もはや決定打の糸口が全くつかめない。

 力に押されてはよろめき、
 素早く身を起こしては斬撃に追いつかれ、
 弘中方明は雷神に圧倒的に追い詰められていった。

 その一方的な一騎討ちの凄まじさに、
 大内軍を殲滅していく明神曲輪の毛利勢も、
 固唾を呑むばかりで近づけない。


 誰が見ても息が上がり
 持久力に限界が来ている弘中方明に、
 雷神の大太刀は容赦なく襲いかかる。

 そして、槍で大きくその攻撃を振り払ったために
 広い隙ができてしまった弘中方明目がけて、
 戸次鑑連はその大太刀を頭上に振り下ろした。

 弘中方明はその一撃を真正面から槍で受ける。

 しかし、その強烈な圧力に押され、
 また片膝をついた。

 戸次鑑連はその槍を真っ二つに折らんばかりに
 雷切の刃をギリギリと捻じ込んでいく。

 重なる武器越しににらみ合う両将。

 弘中方明は歯を食いしばりながら押し返そうとするが、
 戸次鑑連の力は弱まることなく迫ってくる。


 「弘中殿っ!」

 弘中方明の危機を見かねた若き三将が、
 取り囲む毛利軍の中から飛び出した。

 冷泉元豊(れいぜいもととよ)、
 桂元親(かつらもとちか)、
 赤川元徳(あかがわもとのり)の三名である。

 しかし、弘中方明は渾身の声を振り絞り、

 「来るなっ────!」

 と、彼らの加勢を制した。

 冷泉元豊、桂元親、赤川元徳の足が
 その声でピタリと止まる。

 毛利軍の中ではその武勇を誇る彼らであっても、
 この戸次鑑連という桁違いの猛将の前では、
 その一振りで命を散らすことになるかもしれない。

 たとえ一方でこの雲将の相手をしながらも、
 いとも簡単にもう一方の敵将も切り裂いてしまう、
 戸次鑑連はそれほどの卓越した武の持ち主なのだ。

 弘中方明の覚悟の声を聞き、
 戸次鑑連はますます踏み込んで雷切に力を込める。


 「どうした、風神の弟よ。
  その首級、そのうち落ちるぞ」


 槍で防いでいる雷切の刃の直線上に、
 自分の首の位置がある。

 門司城明神曲輪の中央で、
 弘中方明は足下の地面に埋められそうなほど、
 戸次鑑連の大刀に圧しつけられていた。

 豊後の雷神の前に、成す術無し。

 弘中方明は、絶体絶命の危機に陥る────。



 (つづく)






 ─────────────────
  『門司戦記』武将列伝 [十二]
 ─────────────────

 ■杉彦三郎 (すぎ ひこさぶろう)

 毛利家家臣。かつて大内氏三家老の一つであり九州の
 守備を任された杉氏の一将で、大内氏滅亡の後に毛利氏に
 従属。門司城の支城・三角山城の主将に任じられる。
 「門司城の戦い」で配下の内通により城を大友軍に奪われた
 ことにより、門司城攻防戦はさらに熾烈を極めていく。

| 『厳島戦記』 | 02:57 | comments(0) | trackbacks(0) |









http://blog.timestage.net/trackback/1434420