Calendar
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< June 2017 >>
CATEGORIES
ARCHIVES
LINKS
PROFILE
SELECTED ENTRIES
RECENT COMMENTS
OTHERS
Timestageのメンバーが、歴史にまつわる雑談を気まぐれに語っていくブログ。
<< 門司戦記(十) 一網打尽の巻 | main | 門司戦記(十二) 雷雲激突の巻 >>
門司戦記(十一) 雷神降臨の巻
―――――――――――――――――――――――――――― 
門司戦記 〜雷雲の陣〜
――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――
(十一) 雷神降臨の巻 
―――――――――――――


明神曲輪(みょうじんくるわ)で
大友軍の先遣隊をほぼ全滅させた毛利軍だったが、
さらに城門から新手の鯨波が耳に入る。

猛将・戸次鑑連(べっきあきつら)の
第二陣である。

討ち果たした先鋒隊に劣らぬ勢いで、
次鋒隊は城門から明神曲輪まで駆け上がり、
待ち構えた毛利軍に激しくぶつかる。

両軍の刃を交える激しい金属音が、
門司城の中に幾度も響く。


若将の冷泉元満(れいぜいもとみつ)は、
敵の中に、咆哮して戦斧を振り回す
どこか派手な存在感を放つ若武者を目にした。

今度こそ武勲を上げてやるとばかりに
太刀を構えて走り出そうとすると、
「おい、大内勢は引っ込んでろ」と、
二人の味方から肩を押しやられた。

元満よりも少し年長の、
桂元親(かつら もとちか)、
赤川元徳(あかがわ もとのり)の二将だった。

桂元親は、毛利古参の重臣である桜尾城城主、
桂元澄(もとずみ)の子。

赤川元徳は、毛利家の筆頭奉行人である宿老、
赤川元保(もとやす)の子。

どちらの父も
毛利元就が中国地方に雄飛する前からの股肱の臣。

そのため二人とも、
自分たちは次代の毛利を受け継ぐという誇りから、
厳島合戦の後に従属してきた大内勢の新参者を
下に見ていたのである。

桂元親も赤川元徳も、まだ若い。

大内勢の中でも特に若い冷泉元満らを
どこか蔑視していた。

冷泉元満を押しのけた桂元親と赤川元徳は、
恐らく同世代であろう敵将に向かって、
刀を振り上げながら突進した。


「桂元澄が子、桂兵部大夫元親!」

「赤川元保が一子、赤川又右衛門元徳だ!」


毛利家中の名門であることを名乗りながら、
戦斧の若武者に走り寄る。

その二人の突撃に気付いたその若き敵将は、
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、
戦斧を構えながら、雄叫びのような声を放った。


「わしは、吉弘統清(よしひろむねきよ)じゃァァ!」


吉弘統清と名乗ったその将は、
豊州三老の一人・吉弘鑑理(あきまさ)の一族で、
鑑理がその武勇を見込んで戸次隊に預けた若者だった。

大きな身体とは裏腹に、
吉弘統清は眼にも止まらぬ速度で、
その毛利の二将に向かって突っ走り、飛びかかった。

まず、その巨体は赤川元徳目がけて落ちてきた。

全体重が宙から乗った戦斧の力を十分に受けられず、
赤川元徳は後方へ吹っ飛ばされ、背中から落ちる。

その隙に背後から桂元親が刀で突いたが、
吉弘統清は素早く振り向くとその一撃を戦斧で弾き、
桂元親の腹部を片足で蹴り上げた。

突然の激痛に、桂元親は片膝をつく。

吉弘統清の並外れた敏捷力は、
桂元親や赤川元徳の目には追えなかったのである。

目の前の桂元親の首を落とそうと、
吉弘統清は容赦なく右手の戦斧を振り下ろした。

だが、大きな刃音が、
その強力な戦斧を防いだ。

死を覚悟した桂元親が恐る恐る見上げると、
そこには、冷泉元豊(もととよ)が、
吉弘統清の斧を太刀で受け止めていた。


「何だァ? てめえは」

「毛利の将、冷泉五郎元豊」


絶好の獲物を邪魔された吉弘統清は、
とたんに目を血走らせて相手の刀を払い、
再び地に響くような雄叫びを上げ、
敵の頭を叩き砕くべく戦斧を打ち振るう。

だが、冷泉元豊はその気迫に全く動じず、
戦斧の一撃を冷静に払いのけて、
その小手に太刀を素早く叩き込んだ。

その衝撃で、吉弘統清の腕から戦斧が地に落ち、
次の瞬間には、吉弘統清の首に
冷泉元豊の太刀の刃が深々と食い込んでいた。

豪傑・吉弘統清は
前のめりに地に倒れ、絶命した。


冷泉元豊は刀身にまとわる鮮血をさっと払うと、
目の前で膝をついて硬直する桂元親に手を貸した。

唖然として一部始終を見ていた赤川元徳も、
我に返って駆け寄ってくる。


「大丈夫か、元親殿、元徳殿」

「あ、ああ……。助かったぞ、元豊殿」

「すまぬ、元豊殿」

桂元親と赤川元徳は、肩をすくめながら礼を言った。

先ほど、その冷泉元豊の弟・元満に、
大内勢である冷泉家を見下した発言を
したばかりだったからである。

しかし、冷泉元豊も自分たちの立場を分かっている。

自分たちの武勲で見直してもらう他はない。

「元親殿、元徳殿。大友勢はまだ来る。
共に敵を打ち砕こう」

「おう!」

桂元親も赤川元徳も、毛利と大内のいがみ合いを忘れ、
頼れる同世代の冷泉元豊と共に、
新手の大内勢を迎え撃つ。

彼らの先を走る兄の姿を見て、
冷遇を感じていた冷泉元満も気を奮い立たせ、
兄の背中を追った。



大友勢の勢いは止まらず、
後方からどんどん明神曲輪に押し進んでくる。

優勢のはずの毛利軍は、
その背後に大物の気配を感じていた。

そしてその予感は、間もなく的中する。

両軍を押し分けるように、
城門から異様な黒い塊が突進してきた。


「……雷神、来たかっ!」


大友の兵を次々に槍で突き倒していた弘中方明が、
待ち侘びたように高らかに声を上げた。

城門を突破して明神曲輪に突入してくる
その黒い塊。

それは、
漆黒の鎧に身を包んだ屈強の兵たちに担がれた
大きな輿(こし)だった。

その輿の上に座りながら大太刀を振るい、
避け遅れる敵兵を次々に払いのけている頑強な一将。

それこそ「豊後の雷神」、
戸次鑑連であった。

九州全土にその名を轟かす、西国無双の豪将。

若き頃にその大太刀で雷光を斬り裂き、
下半身不随という代償と引き換えに、
その大太刀は雷切(らいきり)という
妖刀となったという。

その後は幾度となく九州各地での戦において、
輿に乗って敵中に突入しては、
手にする雷切で敵軍を斬り伏せてきたという鬼武者。

主君・大友義鎮(よししげ)に
九州最大の勢力を授けたその一番の功臣である。

九州全土がその名に打ち震える雷神、
戸次鑑連の姿が、その輿の上にあった。


黒鎧に身を包んだ戦士たちが形作る
輿を掲げた重戦車の勢いはとてつもない気魄を放ち、
その威圧感に毛利兵も無意識に道を開けてしまう。

それはまるで、巨大な船が進む時に
波が左右にかき分けられる様に似ていた。

その兵の割れていく軍道を、
戸次鑑連の黒い輿は平然と駆け上がっていく。


その存在感に圧倒される毛利の将兵の中で
なぜか愉悦のような感情が起こっていた弘中方明は、
手に握る槍を振り回しながら
その鬼戸次の重戦車に突っ込んでいった。

輿の上の戸次鑑連が、
左方の毛利兵を斬り払おうとしたその時、
弘中方明は輿の右側から走り込んで跳躍した。


「もらった―――――っ!」

弘中方明は、輿の上の雷神に、
渾身の一撃を繰り出した。


これまでに陶晴賢(すえはるかた)、
江良房栄(えらふさひで)など、
西京の猛将たちとも刃を交え、
瀬戸内海域でその槍を振るい続けた弘中方明。

その自分の槍が、ついに九州最強の名将を捉える。

九州という大きな的を貫くような気持ちで、
方明はその槍を突き出す。


だがその槍先に、予想した手ごたえがない。


(いない――――!?)


弘中方明は目を見開いた。

今までその輿の上に乗っていた大柄の戸次鑑連が、
自分の一撃と共に、ふっとその姿を消し、
方明の槍の刃先は空を斬っていた。

どんな頑強な者でも輿から叩き落とせるほどの
勢いの一撃だと確信していた方明は、一瞬戸惑う。

弘中方明が着地したその転瞬。

これまで体感したことのない冷気を、
背中にゾクリと感じた。

そして右の耳がブォンと耳障りな音を察知し、
気付くとそこに大太刀の刃が迫っていた。

「ぐうっっ!」

とっさに槍を戻してその一撃を受けた弘中方明だが、
まるで稲妻のような衝撃が
攻撃を受け止めたその槍から身体全体を走り抜け、
方明の足は地から浮き上がり、全身が吹き飛んだ。

地に転がりながらも慌てて起き上がり
両手で槍を構え直す弘中方明。

その目の前には、
とてつもない気魄を放ちながら見下ろす
大柄の武者の姿があった。


「……立てないというのは、嘘か……」


弘中方明は、うめくように呟いた。

毛利の将兵たちも、大友の将兵たちも、
その姿に注目する。

雷を斬って半身不随と言われていた鬼戸次が、
しっかりと、
その両脚で明神曲輪に立っている。


門司城という大地に今、
豊後の雷神が降り立ったのである―――――。


(つづく)





―――――――――――――――――
『門司戦記』武将列伝 [十一]
―――――――――――――――――

■戸次鑑連 (べっき あきつら)

大友家家臣。豊州三老の一人。その猛勇は「豊後の雷神」
「鬼戸次」の名で九州全土に恐れられた西国無双の名将で、
主君・大友義鎮(後の大友宗麟)を九州最大の勢力に
押し上げた功臣。後に筑前立花家の名跡を継いで立花道雪
と名を変え、養子の立花宗茂は柳河藩の初代藩主となる。
| 『厳島戦記』 | 15:19 | comments(0) | trackbacks(0) |









http://blog.timestage.net/trackback/1434419