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Timestageのメンバーが、歴史にまつわる雑談を気まぐれに語っていくブログ。
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門司戦記(十) 一網打尽の巻
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門司戦記 〜雷雲の陣〜
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(十) 一網打尽の巻 
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門司城の明神曲輪は、大乱戦となった。

九州最大の勢力に拡大していく大友家の
露払いとして西国にその名の知られた
戸次鑑連軍の先鋒隊は、聞きしに勝る奮闘ぶりだった。

毛利軍による矢の雨と包囲攻撃を受けて、
血みどろになりながらも、
凄まじい抗戦を見せていた。


毛利の若き将・冷泉元満(れいぜい もとみつ)は、
敵軍の気迫を見ていっそう気を奮い、
猛者揃いの大友勢に飛び込んでは敵兵を斬り伏せていく。

そして視線の先に、自分と同じぐらいの若い武者が
刀を振り上げて突進してくるのが見えた。

敵将・大庭作介(おおばさくすけ)である。

大庭作介が全力で振り下ろした一撃を、
冷泉元満は真正面から太刀で受けた。

だが次の瞬間、元満は息を呑む。

(しまったっ……!)

敵の刀筋は太刀で防ぎ切ったものの、
重心を落とした大庭作介の突進の勢いに押され、
地面に滴る敵兵たちの血に足を取られて、
身体が後方に吹っ飛ばされたのである。

体勢の崩れた相手を見逃す大庭作介ではなかった。

「死ねええぇぇっ!!」

大庭作介は、転んだ冷泉元満に飛びかかり、
その首に刃を突き立てようとした。

死を感じた冷泉元満は一瞬硬直したが、
その大庭作介が突然、首から鮮血を噴き出し、
元満の横にどさりと倒れて動かなくなった。

その一瞬の出来事に目を丸くする冷泉元満の前には、
兄・冷泉元豊(もととよ)の姿があった。


「兄上……」

「油断するな、元満!
我ら冷泉の戦いぶり、存分に敵に見せてやろう」

「……はい!」


兄に手を引いて身を起こされた元満は、
顔にふりかかった敵の血を拭って、太刀を握り直す。

大内家の名将・冷泉隆豊(たかとよ)の二子は、
おぼろげにしか父の顔を覚えていないが、
その血脈が身に流れていることを誇りに思っている。

「大寧寺の変」で、父は見事な散り際を見せたという。

父のような武心に生きるには、
自分たちの死に場所が、
こんな勝機に乗った戦場であってはならない。

元豊・元満の冷泉兄弟はそんなことを思いながら、
再び大友軍の中に飛び込んでその武勇を見せつけた。



戦友・大庭作介が敵将に討たれた姿が、
遠く視界に写った小野弾介(おのだんすけ)は、
さらに逆上して、握った槍に力を込める。

だが、全身全霊を賭けた渾身の一撃は、
いとも簡単に弘中方明の槍に防がれてしまった。


「言ったはずだ、冷静になれってな」

「……!」


弘中方明は小野弾介の槍の刃先を払いながら、
まるで子供に諭すように言った。

先日、和布刈神社の境内で手合わせをし、
冷静さを失った小野弾介を海に放ったことを、
方明もしっかりと覚えていたのである。

「黙れえええっ!」

弾介は踏ん張るとすぐに跳躍して槍を振り下ろすも、
それもまた弘中方明が槍で受け止める。

小野弾介は怒りに任せて次々と攻撃を繰り出すが、
方明はそれを一つ一つ受け流していった。

溢れ出す怒りから続く攻撃は強烈ではあるが、
冷静さを失って大振りになり動きに無駄が多く、
また血を噴く無数の矢傷が鋭敏さを奪っていた。

それを見抜いていた弘中方明は、一瞬の隙を見て
自らの槍を相手の槍に絡めて素早く払うと、
小野弾介は身体の均衡を失った。

「ぐわぁっ!」

地面に倒れてようやく、
小野弾介は憤怒の麻痺から覚めて、
矢傷の痛みに全身を襲われ、のたうち回った。

弘中方明は、無念に転がる小野弾介を見下ろしていた。

自分にもあった、むしゃらな若き日々。
そんな若き武者たちが、次代を築くのである。

それを思うと、弘中方明には
恐らくこれからその能力を発揮するであろう彼に、
とどめの一撃を刺すことをためらってしまう。

小野弾介は、うめくように何かを叫んでいた。

一度は不覚にも関門海峡に突き落とされた相手に、
またしても情けをかけられるのか―――――。

そして、あまりの出血で意識が飛び始め、
いよいよ死出の旅を感じた小野弾介の脳裏に、
和布刈神社で自分を救った上官、
由布惟信(ゆふ これのぶ)の顔が浮かんできた。

いや、脳裏ではない。

今、その由布惟信本人がまさに、
身を挺して弾介の前に立っていた。

惟信も敵勢の奇襲によって全身に矢を浴び、
傷だらけの身体になっていたが、
弘中方明から小野弾介を守ろうと、
最後の力を振り絞って立ちはだかったのである。

(由布様……!)

口に出す力もなく、弾介のまぶたは閉じていった。


横たわる小野弾介を飛び越えてきた由布惟信が、
弘中方明に槍を突き出し、
方明はとっさにその攻撃を槍で受け止める。


「やっぱり来たな、由布源兵衛」

「ああ。この者は我が軍の将来を担う逸材でな。
我が命と引き換えてでも、この者の命は助ける」


槍をぎりぎりと合わせにらみ合いながら、
両者は和布刈神社以来の言葉を交わした。

そして、苛烈な突き合いが始まった。

由布惟信と弘中方明。

両軍きっての槍の使い手による一騎討ちである。


だがこの勝負は、完全に弘中方明に分があった。

由布惟信は明神曲輪の先頭に立って突入したため、
毛利軍の奇襲に真っ先に晒され、
多くの矢を受けて大きく負傷していたからである。

絶体絶命の窮地に気迫だけで立ち向かっているものの、
やはり全身の深い矢傷は
どんどん由布惟信の体力を奪っていく。

槍を振るうたびに全身からは鮮血がにじみ出し、
やがて防御一辺倒になっていった由布惟信は、
弘中方明の槍を受け払うのが精一杯になってきた。

そしていよいよ力尽き、
由布惟信は大きく槍を振り払ったと同時に
片膝を地に付き、前のめりに地に倒れた。


小野弾介に、由布惟信。

虫の息で地に伏す二人の勇将を見つめながら、
弘中方明はどこか無常を感じていた。

自分の武がこの二人の武者に勝ったわけではない。

彼らは重傷の身体で立ち向かってきたのであり、
もし無傷の二人と死闘を演じていたとしたら、
恐らく自分のほうが負けていたであろう。

二人の槍使いは、軍の失策によって
その武勇を発揮できず、敵襲に晒されたのである。

兄・弘中隆包の姿が、ふと脳裏をよぎった。

毛利軍にその智勇を恐れられながらも、
総大将・陶晴賢の失策のために、
毛利軍にただ一人取り囲まれて討死していった、
岩国の風神の姿が―――――。

いつの世も、
組織の過誤が幾人もの人材を苦しめる。

目の前の血塗られた地獄絵図を見ながら、
弘中方明は世の非情を噛みしめた。


由布惟信もが力尽き、
明神曲輪に突入した大友軍の先鋒隊が
奮戦虚しくついに全滅したというその時。

城門の方向から、
けたたましい跫音が雪崩れ込んでくるのが聞こえた。

その新手の敵に、
優勢の毛利勢は圧倒されることになる―――――。


(つづく)




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『門司戦記』武将列伝 [十]
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■冷泉元満 (れいぜい もとみつ)

毛利家家臣。「大寧寺の変」で主君・大内義隆に従って
凄絶な最後を飾った大内氏の名将・冷泉隆豊の次男。
毛利家臣となり、兄・冷泉元豊と共に門司城の戦いに赴き
大友氏と交戦する。水軍の将として織田信長軍とも戦い、
後に豊臣秀吉の朝鮮半島進出でも出兵し活躍する。
| 『厳島戦記』 | 16:23 | comments(0) | trackbacks(0) |









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