Calendar
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< March 2017 >>
CATEGORIES
ARCHIVES
LINKS
PROFILE
SELECTED ENTRIES
RECENT COMMENTS
OTHERS
Timestageのメンバーが、歴史にまつわる雑談を気まぐれに語っていくブログ。
<< 門司戦記(七) 通謀露顕の巻 | main | 門司戦記(九) 明神曲輪の巻 >>
門司戦記(八) 術計応酬の巻
―――――――――――――――――――――――――――― 
門司戦記 〜雷雲の陣〜
――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――
(八) 術計応酬の巻 
―――――――――――――


毛利軍総大将・小早川隆景は、
血に汚れた書状を読み終わると、
溜め息をつきながら足元を見下ろした。

そこには二人の首と屍体が横たわる。

弘中方明と冷泉元豊が城内で討ち取った
大友軍との内通者、
稲田弾正と葛原兵庫助である。

門司城内に妙な不安が起こってはならぬと、
方明らが息のない彼らを
幕舎の中に引きずり込んでいた。


「こういうことだったのか…。
元満、今すぐ杉彦三郎をここに呼んできてくれ」

「はっ」


冷泉元豊の弟・元満は、小早川隆景の命を受けると、
一礼して天幕を出て行った。

小早川隆景と共にいるのは、
弘中方明、冷泉元豊、仁保隆慰、堀立直正。

今、城内でこの内応を知ったのは、
冷泉元満を合わせてこの六名しかいない。

特に仁保隆慰は、自身が城代を務める門司城の内部で
このような恐ろしい謀略が渦巻いていることを知り、
衝撃を隠しきれずに唇を震わせている。

その様子を見て、小早川隆景は
仁保隆慰を責めることなく優しく声をかける。


「隆慰、これはおぬしのせいではない」

「いえ、面目次第もございませぬ……」

「気にするなって。
これからどうするかを一緒に考えよう」

「はい……」

「さて、この大友の書状なんだが…」


隆景は、弘中方明が稲田弾正から奪った書状を
一同の前で広げて見せた。


「計画は周到に練られていたようだね。
十月十日の辰の刻に、稲田らが狼煙で合図した上で、
明神曲輪(みょうじんくるわ)の城門を開き、
大友軍が全軍で突入するという手筈になっている」

「三日後ですね。まことに来るでしょうか」

「この書状の日付は、今日になっている。
恐らく大友から届いた最新の連絡に違いない」


冷泉元豊の問いに、隆景は日付を指差して答えた。

幸運なのは、この書状が計画決定を知らせるものであり、
稲田と葛原からの返信が不要であることだった。

もし今後も何かしらのやり取りが必要であれば、
返信の字体の違いを読まれる危険性もあるからだ。


敵軍の全軍突入の日時が分かれば、
あとは選択肢は二つしかない。

それまでに敵軍を壊滅させてしまうか、

もしくは、その突入を逆手に取るかである。

小早川隆景が、弘中方明に尋ねる。


「今の大友の布陣から見て、
先鋒として明神曲輪に突入してくるのは…?」

「戸次鑑連(べっきあきつら)に
間違いないでしょう」

「戸次鑑連……。西国無双の鬼戸次だね。
やっぱり強いのかな」

「私も実際に姿を目にしたことはないのですが、
先日、由布惟信、小野弾介ら戸次隊の将たちと
手合わせをしたところ、尋常ではない強さでした。
彼らが心酔する戸次鑑連、恐らく豪傑でしょう」


門司城を取り囲む大友軍の中で
城の口である明神曲輪に最も近いのは、
名将・戸次鑑連の一隊だった。

戸次鑑連の軍は、九州でその戦力の高さを見せ続け、
西国随一の強さだと恐れられていた。

戸次鑑連は、数人の兵に担がれた腰に乗り、
その上から大刀を奮いながら戦場を駆け抜けるので、
その気迫から敵は必ず裂かれて突破を許してしまう、
と言われている。


「九州諸国では、戸次鑑連の輿での突撃は
『鬼戦車』と恐れられているとか。
何でも、雷を斬ってから脚が動かなくなり、
輿に乗るようになったらしいですぜ」


商人出身ならではの情報網を持つ堀立直正が、
自分が知る戸次鑑連の逸話を話す。


彼は若かりし頃、戦場で天からの落雷を受け、
手にした大刀でその稲妻を斬り裂いたという。

その稲光の衝撃で、一命は取りとめたものの
下半身不随となり、輿に乗るようになったという。

しかし、雷電を一刀に斬り裂き
「雷切」(らいきり)と名付けられたその大刀で、
戸次鑑連はその後も敵の将兵を斬り続け、
戸次の名を聞くだけで逃亡する敵軍も続出した。

戸次鑑連現る所に、大友の敗北無し。

「雷神」「豊州の鬼戸次」の異名は、
本州の小早川隆景らの耳にも当然届いていた。

そして、鬼戸次本人には会わなかったものの、
その配下の由布惟信や小野弾介らと槍を合わせた
弘中方明は、戸次隊の強さは鑑連本人の武だけでなく、
武芸に秀でた武者揃いの総合力にあると感じていた。

そんな強敵が、今まさに
門を破って突入しようとしているのである。

毛利の将たちにも緊張が走る。


冷泉元満が、杉彦三郎を連れて戻ってきた。

小早川隆景が指差した傍らの二つの首を見て、
杉彦三郎はギョッとして目を見開いた。

隆景は杉彦三郎に問いかける。


「彦三郎、彼らに見覚えはあるか」

「は……はい。我が隊の副将、
稲田弾正と葛原兵庫助にございます……。
いかがしたのですか……」

「大友に内通していることが分かった」

「えっ……! あ……あ……」


何も知らなかった杉彦三郎は顔面蒼白になり、
脳内が混乱に陥ったのか、言葉に詰まる。

そして、しばらくすると
たまらず土下座して頭を地にこすり付けた。


「申し訳ございませぬっ!!
そのような謀が我が隊内で行われていたこと、
この彦三郎の一生の不覚でございます!
申し訳ございませぬっ!」

「やめよ、彦三郎」

「この不始末、命をもって償いまする!」

「やめよと言うのに。
いいか彦三郎。大事なのは次だ。将来だ。
此度の一件、断じておぬしの責任ではない。
だが自身の不始末と思うなら、
それを次の勝ち戦に活かすことを考えよ」


小早川隆景は、男泣きする杉彦三郎の手をつかんで
引っ張り立たせた。

同じように隆景に励まされた仁保隆慰も、
杉彦三郎の肩をやさしく擦る。

弘中方明が小早川隆景に考えを語る。


「恐らく三角山城が大友の手に落ちた時も、
稲田と葛原の両名の手引きによるものでしょう」

「そのようだね。
彦三郎、その時の状況は?」


方明の推測に賛同した小早川隆景は、
三角山城の城代だった杉彦三郎に尋ねた。

彦三郎は涙を拭いながら答える。


「はい、確かに出丸を突破された時には、
出丸の守将は弾正と兵庫助を任じておりました」

「うん」

「大友の先鋒の勢いが凄まじかったため、
彼らへ責を問わなかったのです。
あの時、それがしが情け心を持たなければ……」

「いや、だからそれはおぬしの責任ではない。
稲田と葛原の手引きだと分かれば、それでいい。
その時、三角山城に攻め入った部隊は?」

「戸次鑑連の軍勢でした。
一番槍の武者どもがとにかく凄烈な強さで、
遅れて輿に乗った戸次鑑連が駆け上がってくると
我が守備隊は総崩れとなり、門司城へ逃げました」

「そうか。やはり戸次隊か……」


小早川隆景は杉彦三郎の報告を聴いて、
腕を組みながら深くうなずいた。

恐らく大友軍は三角山城を謀略の実験とし、
今回はその総仕上げとして、
三角山城の陥落の時と同じ手を使ってくるだろう。

しかも、総大将である自分が門司城に入城したことで、
大友軍にとっては願ってもない獲物が罠にかかった、
と思っているに違いない。

この絶好の機会を逃すはずがなく、
必ず謀計を強行するであろう。

小早川隆景が無理して門司城に入ったことは、
大きな意味を生んだことになる。

稲田や葛原ら大友の縁者を通じた策謀には、
隆景が危惧していた、
毛利軍内の旧大内派の問題も多分に含んでいる。

この大友の術計を叩き潰すことは、
その問題に鉈を入れる契機になるかもしれない。

小早川隆景は目を閉じ、そのように考えていた。


思案にふける総大将を、じっと見守る毛利の将たち。

小早川隆景は意を決し、
目を強く見開いて諸将に告げた。


「決戦は十月十日だね。
十日辰の刻、来襲する大友軍を迎え撃つ!」

「ははっ!」

「方明、元豊、元満。
三人には明神曲輪の守備についてもらう。
当日までに準備を整えよ」

「お任せ下さい!」


弘中方明、冷泉元豊、冷泉元満の三将は、
意気揚々に応えた。


(ついに会えそうだ、豊後の雷神……。
どれほどの豪傑か、この目で確かめよう!)


弘中方明は、心の中で期待を膨らませる。

九州全土にその武を轟かせる名将・戸次鑑連。

数々の猛将と刃を合わせてきた弘中方明は、
その噂の名将の実力がいかほどのものか、
実際に見定めてみたかったのである。

その雷神の姿が拝める日が、ついにやって来る。

岩国の雲将・弘中方明は、
その対決を待ち望むと同時に、気を強く引き締めた。



永禄四年(1561年)十月十日。

その運命の日はやってきた――――。


(つづく)



――――――――――――――――
『門司戦記』武将列伝 [八]
――――――――――――――――

■仁保隆慰 (にほ たかやす)

毛利家家臣。かつては周防大内氏の奉行人であったが、
毛利氏が防長経略にて大内氏を滅ぼした後に毛利氏に
仕えてからは、企救郡代官として門司城に入り城代と
なる。「門司城の戦い」では豊後国から北上してきた
大友氏の大軍による門司城猛攻に耐え抜いた。
 
| 『厳島戦記』 | 15:26 | comments(0) | trackbacks(0) |









http://blog.timestage.net/trackback/1434416